大きすぎるアソコゆえに…あるアフリカ人女性を襲った悲劇

「自然のままで」は普通じゃなかった!?文化人類学に見るアソコの形

テーマがテーマなのであまり表だって取り上げられることはなかったにせよ、文化人類学がかなり熱心に追求してきた課題のひとつに、女性のアソコの形の歴史があります。

この連載では初回から最先端の科学技術を用いて、アソコの美容整形に取り組む女性の姿に触れてきましたが、「最近の女性は、妙なコダわりがあるもんだ」とか「自然のままでいいのに!」と、ある種の男性陣を驚かせたりしたかしれませんね。

文化人類学に見る理想のアソコ

アートや歴史といったジャンルから離れ、文化人類学の方面からもアソコ研究を深めたところ、まったく違った理想の「i」ラインもアフリカやミクロネシアには存在していたことがわかりました。

具体的には幼い頃からひっぱったり、伸ばしたり……刺激を加えることで小陰唇やクリトリスを人為的に巨大化させ、男性のアソコの外見に近づけることを目的とする例も、世界を見渡せばチラホラとあるようです。

地球最古の人類が持つ驚きの特徴

たとえば南アフリカには、コイコイン族(Khoi Khoin。もしくはコイコイ族)と呼ばれる、太古の人類の身体的な特徴を色濃く残している(とされる)少数民族が存在します。

ホッテントット族といったほうが有名かもしれませんが、それは蔑称です。彼ら・彼女らはどちらかというとアジア人のようなあっさりとした目鼻立ち。身長も低めなのですが(成人男性平均身長が160センチ)、男女ともに大きく後ろに飛び出たヒップを持ちます。さらに女性は巨大な小陰唇の持ち主が多いことで知られています。

巨大なアソコが引き起こした?悲劇

フランス革命が勃発した1789年、南アフリカで生まれたコイコイン族の女性、サラ・バートマンは両親を早くに失い、同じ部族の男性の家で子守や乳母をして暮らしてました。貧しい暮らしに嫌気がさしていたサラに、当地のイギリスからやってきていたダンロップという海軍関係者が目をつけます。

彼女が(欧米人の目には)たぐいまれに見えるほどに巨大なヒップ、そして……まるで、股の間から前掛けが垂れているかのように見えるほど肥大した小陰唇を持っていたからです(実際、コイコイン族の女性のアソコは「ホッテントットのエプロン」と呼ばれてきました)。

これがほんとうに彼女の部族の女性特有のものか、あるいは幼少時から引っぱったりして整形を試みた結果なのかは文献によって記述がバラバラで不明ではありますが、サラは「金儲けができるぞ」とダンロップらイギリス人に騙され、1810年にロンドンに船にのって渡ることになります(ちなみにこの年、ポーランドに「ピアノの詩人」ことショパンが生まれました)。

しかし実際はヨーロッパで金儲けができるどころか、サラの身分は薄給の子守のままでした。それ以外に「時間外労働」として、身体にはりつくようなレオタードを着せられたサラは見せ物として客の前に連れ出され、いかにもアフリカっぽい風景画を背景にして踊れといわれたり、その大きなお尻がホンモノであるかを触らせ、確かめられたりするような仕事を課されました。


19世紀のイラストサラ・バートマン - 19世紀にフランスで描かれた「La Belle Hottentot」


その後、サラはイギリスからフランスに移り、当地でも「ホッテントットのヴィーナス」などと呼ばれ、人気者にはなりますが、人間としてというより、結局は見せ物として扱われる日々が続きました。

一度は奴隷解放論者によって、アフリカに戻してやろうと救出が試みられますが、彼女は「自分の意思で」ヨーロッパに留まっています。

しかし、それは雇い主の強制だったのでしょう。個性の違いはあっても同じ人間なのに……という無念さの中でサラは精神を病み、アルコールや薬物の依存症となったあげく、26歳の若さで亡くなってしまったのでした。死因は天然痘とも別の病気ともいいます。

そして彼女の遺体はフランスの科学者に手渡され、標本にされてしまったのでした。彼女の脳や、巨大な小陰唇はホルマリン漬け標本として、骨は骨格標本として、1975年までパリの人類博物館で公開されつづけていたのです。

その後、フェミニストたちによる批判や、南アフリカのマンデラ大統領のつよい要請のおかげで、約200年ぶりにサラの遺体は故国に帰ることになり、ようやく埋葬された……というのですから、いろいろと驚いてしまいます。


    この逸話にみられるのは人種差別の悲劇だけでなく、女性器というものに、どれだけわれわれの関心が、下世話なレベルから、学問的なレベルにいたるまで注がれているかの証明でもあると思います。

『堀江宏樹のアソコ世界史観』過去記事一覧


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著者紹介 堀江宏樹さん

歴史エッセイスト・作家。1977年生まれ、大阪府出身。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。大学在学中からフリーランスライターとして文筆活動を開始。『仰天! 歴史のウラ雑学 後宮の世界』(竹書房)で作家デビュー。性別を超えた独特の論調で、幅広いファン層をもつ。2016年秋発売の『恐い世界史』(三笠書房)が現在ヒット中。好評近著に『乙女の真田丸』(主婦と生活社)、『三大遊郭』(幻冬舎)。最近の文庫化に『愛と夜の日史スキャンダル』『乙女の日本史 文学編』など。
プロフィール写真:(C)竹内摩耶

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